何事も鍼灸に活かす姿勢

小林先生と初めて会話したのは某セミナーの懇親会でした。
セミナーで「普段からできる鍛練法」を質問したことについて、「良い質問」と言ってもらった覚えがあります。
後年になって改めて真意を尋ねたところ、「刺入練習や站椿功ですら続けるのが難しいのに、普段の生活でも訓練しようとする姿勢が印象に残った」とのことでした。

振り替えれば、先生は日常の中でのアレコレをいかに鍼灸に活かすか、という視点を常に持っていたように思えます。
最もそのように感じたエピソードは先生の趣味に関する話です。
皆さんは小林先生が小唄を嗜んでいたことをご存知でしょうか?
雑談の中で、小唄を始めたきっかけが話題になったことがあります。
当時の小林先生には小唄と弓道に縁があったとのこと。
しかし、鍼灸と小唄と弓道を全てこなすのは流石に難しかったそうです。

少し話は変わりますが、小林先生は『医道の日本』という雑誌の企画で『弓と禅』という本を紹介したことがあります。
弓道にも何か感じるものがあったということですね。
しかし、結果的に小唄を選んだのはなぜだと思いますか?
なんと「五行色体表に載っている五音の違いを実感できないか期待して」ということでした。
弓道にせよ小唄にせよ、趣味として嗜むだけでなく何かを見いだそうとする姿勢に鍼灸師としての気概を見た気がしました。

別の趣味でも似たようなエピソードがあります。
先生は度々足を運んで聴きに行くくらい、故・柳家小三治師匠の落語がお好きでした。
本格的な伝統落語の面白さも挙げていましたが、もう1つの理由がまくら(本題に入る前の導入部分)の上手さ。
「あの間の取り方は講義や患者さんとの会話の参考になる」という言葉に、小唄の件と同様に衝撃を受けたのを覚えています。
また、偶然テレビで観たSF映画を例えにして、普段と違う角度から意識の話をしてくれたこともありました。
いずれにせよ、仕事から離れてリラックスするはずの娯楽の中にも鍼灸師として役立つものを見出だしてしまうようでした。

実は、このような逸話を聞かせてくれたのは小林先生に限りません。
加藤稔副会長は、写真撮影のために山に頻繁に足を運んでいたそうです。
その自然の中で体感した陰陽を何通りも教えてくれました。
他にもデッサン経験を望診に活かしている先生、乗馬で站椿功のコツをつかんだ先生もいます。
先生方の元々の気質もあるでしょうが、類は友を呼んで小林先生の下に集ったのが積聚会なのかもしれません。

積聚治療や積聚会の探究を重視するスタイルには、小林先生の向上心も反映しているように感じています。
なかなか著書や講演などでは伝わりきらない部分ですが、幸運にも身近で小林先生の背中を見ることができました。
少しでも小林先生の姿勢を受け継ぎ後進に見せていくことが、これから我々ができる恩返しかなぁと思っています。

元・太子堂鍼灸院スタッフ
桂田大輔